練込異物という課題
練込異物はプラスチック成形において課題のひとつです。
練込まれた異物は、成形機の外側の原料や資材自体に混入されたものであることもありますが、大半は成形機や金型側で発生していると推測されます。
樹脂と成形機を扱う者にとって、成形機シリンダの加熱筒部分の中に樹脂を入れたまま置いておくとその中の樹脂が焼けてしまったり炭化物の元になったりします。
これらの焼けた樹脂は、パージング作業や、最悪シリンダ内のスクリュー掃除で除去対応することが出来ます。
これと同じようなことは、金型の中でも起こります。
金型には大きく分けてホットランナーとコールドランナーがありますが、弊社はそのどちらも使用しています。
長年使い続けた結果分かったことは、ホットランナー金型の、特にハイサイクルのものは練込異物が発生しやすいという傾向があるということです。
ホットランナーにはヒーター部分があるため、コールドランナーよりも樹脂が焼ける可能性が高そうなことがおのずと推測されます。
それによる樹脂の焼けが問題なのだと考えるときもありましたが、実際はそれだけではありませんでした。
焼けている樹脂であればいつか無くなると思われましたが、動かし続けているホットランナー金型から絶えず練込異物が発生するようになりだすと、他に原因があると考えだしました。
金型内部になんらかの『ゴミ』が溜まっている可能性を考えましたが、そしてその『ゴミ』はどうやって除去するのか?方法はどうしたらいいのか。
それを知るためには、まずどこにどのように『ゴミ』が蓄積されるのかを知る必要がありました。
金型の流路とゴミの蓄積場所
金型には樹脂が流れる『流路』があります。
金型の流路はメーカーによってノウハウや考え方、処置が異なるために、様々な形状をしています。
継ぎ目も様々で、そのような流路面の微細な違いや粗面度によって樹脂のとどまる場所が発生することがあります。
また、流路は高速・高圧で射出される樹脂の流れにさらされます。
その中でもホットランナー等の高速な成形を行うものは、短いサイクルで繰り返されるため劣化が早い傾向があります。
劣化した流路にはいつの間にか粗面が発生し、樹脂が引っ掛かって残りやすくなります。
これらの流路の凹凸に蓄積した樹脂が『ゴミ』となります。
これを理解するまではかなり時間がかかりました。
様々な金型を分解して掃除して、考えられる対策を打ってはまた悩みを繰り返した結果得られたデータでした。
この蓄積されたデータから、ゴミが蓄積されること問題であるということは理解できましたが、それを除去するとなるとさらに非常に難しいものでした。
成形機のシリンダでは、スクリュー面やシリンダ壁面にこびりついた残留物を専用の樹脂や高速パージによってはがし取る、という手段をとることが出来ます。
金型にも同じことをしてやればいいと思うかもしれませが、金型の流路が劣化している状態でこういった手段を取れば、ただただ大事な金型を余計に傷つけるだけになりかねません。
炭化異物は長時間の熱と酸素にさらされた樹脂が劣化して焼けたものであり、『酸化防止剤』といったものを樹脂に添加すれば異物の元となる樹脂の焼けを比較的防げるようになります。
ただ、食品関連では酸化防止剤などの添加が出来ない場合もあり、異物を防ぐ手段を取れない時もあります。
こうなると金型側をどうにかしないと異物を防ぐことが出来ません。
様々なクリーニング方法を試し、金型を傷つける可能性のないよりよい方法を探し続けました。
結果、クリーニングオーブンを使用した現在の『金型クリーニング』に出会いました。
クリーニングオーブンによる残留樹脂除去のメカニズム
弊社の射出成形では汎用的なプラスチックのPP(ポリプロピレン)・PE(ポリエチレン)・PS(ポリスチレン)を使用して成形することが多数を占めています。
これらのプラスチックは、炭素や水素が主体となって構成されています。
炭素や水素は有機物の範疇にあり、高温を与えると酸化還元反応が行われて水と二酸化炭素に分解される性質を持っています。
それを活用すると、クリーニング専用のオーブンにて500度以上の高温を与えて分解することが出来ます。
金型の内側、分解しても取れない流路の先にある蓄積した樹脂の『ゴミ』に手が届かなくとも除去が可能ということになります。
樹脂には様々な添加物がありますが、その部分は塵となって残ります。
その残った塵は、エアなどで軽く飛ばせる程度の状態になっており、簡単に除去できます。
このクリーニングオーブンの良いところは、金属や流体などを一切使わずに熱を加えるだけであるため、全く金型に傷がつかないということです。
そのうえ、対象の蓄積した樹脂たちは、水と二酸化炭素といった大気中の成分と同じものに分解されて無臭で無害なものに変換されるため、人体や環境にやさしく安全なクリーニング方法となっています。
『金型はいのち』という考え方
弊社には『金型はいのち』という考えがあります。
金型はその形と共に、今まで積み上げた様々なノウハウがつぎ込まれた非常に大切な物です。
同じように作った同じ図面から出来た金型でも、時間が経てば違った様相を見せます。
最悪、成形機も樹脂も購入すれば代替が効きますが、金型は替えが効きません。
金型自体がダメになってしまうと、成形作業者がどのように頑張ってもよい製品は生まれなくなってしまいます。
良い製品が生み出せないということは顧客の満足も得られず、最終的には顧客の信頼を失っていくことにもつながります。
異物に対する目線は年々厳しさを増していっており、異物に対する対応も高い水準で維持する必要があります。
弊社の提供するクリーニングオーブンを使用した金型メンテナンスは、金型を高い水準で維持するために必要な要素の一つとして取り組んでいます。
『金型メンテナンス』
金型と環境に優しい金型・成形補助器具のクリーニング